東野圭吾『片想い』結末の真相とは?真犯人とラストの意味を徹底考察
元女子マネージャーの告白から始まった殺人事件は、哲朗たちが事件の核心へと足を踏み入れるにつれて、全く異なる様相を見せ始めます。結論から明かせば、戸倉明雄を殺害した真犯人は日浦美月ではありません。実際に手を下したのは、ストーカー被害に脅えていたホステスの佐伯香里でした。
美月は、自らが心から愛していた香里を殺人犯にさせないため、「自分が衝動的に首を絞めて殺した」と偽りの自白をし、全責任を一身に背負おうとしていたのです。しかし、この事件の深層は単なる身代わりにとどまりませんでした。その背景には、社会から零れ落ちた人々がすがる戸籍売買(戸籍交換)の地下ネットワークが色濃く影を落としていました。
身体と心の性の不一致に苦しみ、社会的に男性として生きたいと願う美月は、裏社会で戸籍ブローカーを通じて「神崎ミツル」という戸籍を買い取り、完全に日浦美月という存在を抹消しようとしていました。ところが、その戸籍交換ルートを探る哲朗の前に、もう一人のキーマンが浮上します。大学時代、アメフト部のランニングバックであり、美月に密かな想いを寄せ続けていた中尾功輔です。
中尾は末期癌に侵されており、余命いくばくもない状態でした。彼は美月が苦境に立たされていることを知り、自分の残された命を彼女のために使い切ることを決意します。中尾は自ら戸籍売買ルートに接触し、美月が背負った「殺人犯」の汚名を全て自分が引き受けるという壮絶な偽装工作を企てました。
中尾は自らの命を絶ち、その遺体の傍らに「自分が戸倉明雄を殺害した」と記した遺書を残すことで、警察の捜査の矛先を美月から完全に逸らします。警察は被疑者死亡のまま中尾を書類送検し、事件は公式に幕引きを迎えました。真犯人である佐伯香里、身代わりになろうとした日浦美月、そしてその全てを覆い隠して自らの命を捧げた中尾功輔。幾重にも重なる愛と犠牲のトリックによって、事件の真実は闇の中へと葬り去られたのです。