魔女の宅急便の主題歌はなぜユーミン?名曲起用の真相と宮崎駿の意図
スタジオジブリの歴代長編アニメーションにおいて、主題歌に「既存の商業ポップス」をそのまま採用したケースは極めて異例です。『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』と、作品世界のために書き下ろされたオリジナル楽曲が続いていた中で、なぜ『魔女の宅急便』では荒井由実の楽曲が選ばれたのでしょうか。
発端となったのは、プロデューサーである鈴木敏夫の発案でした。当時、思春期の少女が都会で自立していく物語を描くにあたり、映画の世界観にふさわしい音楽性を模索していた制作陣。鈴木氏は偶然足を運んだ松任谷由実のコンサート会場で、会場を埋め尽くす若い女性たちの熱気と共感を目の当たりにし、「現代を生きる女の子の気分を表現できるのはユーミンしかいない」と直感したと当時の回顧録で明かしています。
当初は映画のためのオリジナル新曲を依頼するプランも浮上していましたが、宮崎駿監督が荒井由実初期のアルバムを改めて聴き込み、1970年代の楽曲が持つ「ノスタルジーと都会的な洗練が同居する空気感」に強い確信を得ました。架空のヨーロッパ風都市「コリコ」を舞台にしながらも、描いているのは昭和から平成へと移り変わる時代の日本人が直面していた「思春期のリアルな孤独と旅立ち」。時代を経ても色褪せない普遍的なメロディこそが、キキの心情を最も雄弁に代弁できると判断されたのです。