前頭側頭型認知症の症状と性格変化の真相|初期サインと家族の接し方
「以前は誰に対しても穏やかで礼儀正しかった父が、些細なことで激高し、スーパーのレジで店員に怒鳴り散らすようになった」「母が家族の体調不良にも一切の関心を示さず、冷淡な言葉を投げかけて平然としている」——現場の相談窓口や手記には、こうした家族の悲痛な叫びが数多く寄せられています。家族が最も苦しむのは、「本人の性格が意地悪になったのではないか」「長年のストレスで自分への敵意が爆発したのではないか」と受け止めてしまう点にあります。
感情や行動の激変が起きる根本的な理由は、大脳の前頭葉眼窩面(がんかめん)および前頭極、そして側頭葉前部が選択的に萎縮することにあります。前頭葉は人間に固有の高度な脳機能を担っており、以下のような役割を果たしています。
- 社会的な常識やルールを守るためのブレーキ(抑制機能)
- 他人の感情を推し量り、痛みに寄り添う共感性
- 状況に応じて行動を柔軟に切り替える判断力・計画性
前頭側頭型認知症を発症すると、この「理性のブレーキ」が物理的に壊れてしまいます。その結果生じるのが、専門用語で脱抑制(だつよくせい)と呼ばれる行動障害です。社会的な羞恥心や遠慮が失われ、思いついた衝動をそのまま行動に移してしまいます。万引き、赤信号の無視、他人の物を勝手に食べる、卑猥な言葉を平然と口にするといった反社会的・非常識な行動は、悪意で行っているのではなく、衝動を抑える脳の機能が失われた結果にほかなりません。
もう一つの決定的な変化が病識の欠如(病識低下)と情動の平板化(アパシー/無関心)です。アルツハイマー病の初期であれば「最近物忘れが増えておかしい」と本人が不安を感じる場面がありますが、前頭側頭型認知症の患者は自らの異常に全く気づきません。他人がどれだけ怒り、悲しんでいても「自分が正しい」「何が悪いのかわからない」と本気で感じており、かつて持っていた繊細な配慮や温かみは消失します。周囲の目を気にせず自分の欲求を貫く姿は「我が道を行く行動」とも称され、これが家族を最も孤立させる要因となっています。