西遊記1978年キャストの現在と秘話|夏目雅子起用の真相と奇跡の旅
本作における最大の革新は、中国の古典『西遊記』において屈強な男性の高僧である玄奘三蔵を、当時20歳前後の若手新進女優であった夏目雅子に演じさせた点にあります。このキャスティングは単なる話題作りではなく、当時の制作陣が直面した困難と妥協なき美意識から生まれた奇跡的な決断でした。
制作関係者の証言や当時の制作秘話によると、企画段階においてプロデューサー陣が三蔵法師役に最初に熱望したのは、歌舞伎界の女形として当代随一の美貌と気品を誇っていた坂東玉三郎でした。俗世の汚れを知らない天衣無縫の高僧を表現するには、男性でありながらこの世のものとは思えない神秘的な透明感を持つ玉三郎以外にいないと考えられたのです。しかし、歌舞伎の本興行との過密なスケジュール調整がつかず、出演交渉は難航の末に不調に終わりました。
「坂東玉三郎に匹敵する、性別を超越した清廉な美しさを持つ表現者はどこにいるのか」――暗礁に乗り上げた制作チームの目に留まったのが、1977年にカネボウのキャンペーンガールとして水着姿で一世を風靡したばかりの夏目雅子でした。まだ本格的なドラマ主演経験は浅かったものの、カメラテストで見せた凛とした眼差しと、俗世に染まっていない気高さがスタッフを射止めました。
しかし、当時の芸能界において、売り出し中の若手女優が頭髪を剃毛、あるいは特注の特殊メイクキャップで隠し、重厚な法衣をまとって男装することには、所属事務所や家族からの強い懸念もありました。夏目雅子自身の手記や当時の関係者インタビューによると、本人は「三蔵法師という大役に挑戦できるなら、髪を隠すことなど何でもない」と強い覚悟を示したと伝えられています。
堺正章や西田敏行といった、アドリブを連発する強力無比な喜劇俳優たちの中に放り込まれた夏目雅子は、決して埋没することなく、澄んだ瞳と凛とした発声で現場を引き締めました。彼女の演じた三蔵法師は、悟空たちの奔放な暴力衝動を「お経(緊箍児の呪文)」で戒めながらも、時に慈悲深い涙を流すという、母性と少女の純真さを併せ持った存在でした。この演出が空前の説得力を持ち、後に制作された日本テレビ系列の歴代リメイク版(牧瀬里穂、宮沢りえ、深津絵里など)においても「三蔵法師は美しい女優が演じる」という日本固有のフォーマットが決定づけられたのです。