「野原ひろし」魂のバトン:藤原啓治が残した熱狂と森川智之の覚悟
アニメファンや映画批評家の間で、アニメ史に残る金字塔として語り継がれている名作がある。2001年に公開された『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』だ。劇中、ノスタルジーの罠にはまり幼少期に退行してしまったひろしが、己の足の臭いを嗅ぐことで、サラリーマンとしての苦難、妻・みさえとの出会い、子どもたちの誕生という自らの「泥臭い現実の人生」を取り戻す感動的な回想シーンは、涙なしに見ることはできない。
言葉によるセリフではなく、荒い吐息と表情の機微だけで人生の重みを表現した藤原氏の演技は、まさに神業だった。制作スタッフの証言によれば、あのアフレコ現場は静まり返り、テイクを重ねるごとに全員が息を呑んでいたという。ただのギャグアニメの枠組みを超え、大人の鑑賞に堪えうる屈指のファミリーアニメへと作品を引き上げた原動力こそ、彼の圧倒的な演技力だった。